火花を読んだ

火花
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とても共感できる面白い小説だった

芥川賞をとった作品。しかもお笑い芸人が書いたもの。とくれば、読む前の第一印象としては「話題性のためのものかな」なんて穿った見方をしていました。

でも実際読んでみると、そんな偏見を抱いたことを恥じ入るばかりです。物語にぐいぐい惹き込まれ、時に笑い時に涙し、芥川賞すげーって思いました。

私にとっては共感の嵐の小説で非常に響きました。

二人のお笑い芸人の物語

この火花は、主人公の徳永と、その徳永が師匠と慕う神谷の二人のお笑い芸人の物語です。

序盤を読んでいる間はこう思っていました。偉大なる笑いの師匠神谷の残した軌跡を描く作品なのかなと。

ものすごい笑いのセンスにあふれていて、でもそれが周りにはうまく伝わらなくて、そのことを主人公だけが知っている。そんな師匠が結局日の目を見ることなく亡くなり、その意思を引き継いでいくんだというストーリー。

なんていう話を最初は想像してました。少なくとも師匠は死ぬんだろうと思っていました。

なぜなら火花というタイトルと、なんだかアンニュイな書影と地の文、そして師匠が「俺の伝記を書け」なんていうシーンがあったりしたものですから。私は「この師匠いつ死ぬんだろう」とハラハラしながら読んでしまいました。

ちなみに本書、火花は決してそんな物語ではありません。私が普段ミステリを多く読んでいるせいで、なんか勝手に「師匠は死ぬんだろう」と思って読んでいたというだけの話です。

もしかしたらそう思い込ませることも作者の狙いだったかもしれません。

笑いどころあり、泣きどころあり

お笑い芸人だからという枕詞はいろいろと失礼なのかもしれませんが、実際に読みながらそう感じてしまったのだから許してもらいたいのですが、著者がお笑い芸人だからかストーリーの流れが変化に富んでいて面白いと思いました。

地の文のテンションが低いからか、物語中に生じるちょっとしたギャップが面白く感じるんですよね。変顔して無理やり笑わせる感じじゃなくて、ちょっとズレててクスリとくる感じの笑い。

そういう面白おかしいだけじゃなくて、泣かせるところは泣かせる。「ベタな展開なのに悔しい」なんて思いつつも涙をこらえきれませんでした。

不器用な人に優しい世界であって欲しい

この本を読み終わって感じたことは、こういう不器用な人たちを許容できる世界であって欲しいなぁということでした。

そうは思いつつも、じゃあ実際に神谷や徳永のような人が周りにいたとして自分は許容できるのだろうかと思うと、即答できない自分がいます。

この小説のように、不器用な人間のひととなりを知ることができれば、きっと許容できるのでしょう。しかしそのようなバックグラウンドを一人一人について知ることは不可能です。そのような状態で、神谷のようなひんしゅくを買うような言動だけを見て、「ああこの人は不器用な人なんだな」と認識して許容できるのかどうかといわれると多分できないです。

実際にテレビやネットで見るたった一部の言動だけを見て、「こいつは不謹慎だ、けしからん」と断罪してしまっているのが現状です。

そんな自分ではありますが、それでもやっぱり世の中は寛容であってほしいなと願うわけです。

こうあるべきだ、こうしなければならないじゃなくて、まあいっかの世界。

そういうことを考えさせられる小説でした。笑って泣いて考えさせられて、オチもちゃんとついて。久しぶりに面白い小説に出会えた気がします。

私は見事なオチだなと思ったんですけどね、まあ人によるかもしれません。

人を選びそう

私には妙に刺さる作品でした。ただ、人を選びそうだなとも思うのです。

人を選ぶというのは、「この笑いのセンスが分かるやつにしか面白くない」という意味ではなく、それこそ先に述べた「許容できるかどうか」という意味です。

色眼鏡を外して読めるかどうか。登場人物に共感を持てるかどうか。そしてバックグラウンドを知った上で、それでも彼らの行動を許容できるかどうか。そういう意味で私は人を選びそうだなと思いました。

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