殺戮にいたる病はいろいろ語りたいのに語れない作品

殺戮にいたる病
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衝撃の結末に脱帽。凄惨描写が苦手でなければぜひ読んで欲しい。

スプラッタな表現が生理的にどうしても受け付けない人には薦めるのはためらいますが、そうでないのであればぜひ読んでほしい作品です。

この作品は事前の知識無しで読むのが一番面白いです。作品の内容に触れれば触れるほど楽しさを奪っていくような気がして、内容について語るのが憚られます。だから「どんな話?」と聞かれたら「いいから読め」と返すのが一番いい気がしています。

私は先入観を持たずに読むことが、この作品を一番楽しめる読み方だと思います。

面白いからいろいろ語りたいんだけど、自分の感じた面白さを共有してもらうためには、中身に触れずに読んでもらうしかない。でもいろいろ言いたい。だから読み終えた人と感想語り合いたい作品です。

どういう話か

と言いつつそれで終わるのはあまりにもあまりなので、私が思う差し障りの無い範囲で内容を紹介します。

ヘタな先入観をもつと楽しめなくなるんじゃないのかという懸念があるので、興味があるならここから先は読むことなく、「殺戮にいたる病」を読んでもらったほうがいいと思います。

この作品はタイトルとおり「殺戮にいたる病」を描いた物語で、文中にはかなり凄惨な描写が含まれています。

私はグロテスクな表現が特に苦手というわけではありませんが(好き好んで見ることもしませんが)、文字による描写で「うへぇ」と思わされるのはこれがはじめてだったかもしれません。

そんな強烈な描写があるので、スプラッタなものは生理的に受け付けないという人にはお勧めしづらいです。ですがだからこそ、その殺戮にいたる狂気の生々しさが臨場感をもたらし、それゆえに惹きつけられてしまうんだと思います。

凄惨描写に過敏というわけではない私が、読んでいて気持ち悪くなるほどにその描写はリアリティがありました。まさに「殺戮にいたる病」がまざまざとここに描写されていると思います。

ミステリ作品ではありますが、最初から犯人サイドの描写があります。メインとなるのは犯人が殺戮に走るに至った経緯、そしてどのような最後を迎えるかが焦点となります。ミステリの類型でいえば倒叙ミステリにあたるのかもしれません。

驚きの結末

犯人が殺戮にいたる過程、その描写がすごいこともこの作品の面白さのひとつだと思ってはいます。ですが、この作品の一番の面白さはそこではありません。この作品の一番の面白さは、最後まで読んだときに訪れます。

クライマックスに向かって手に汗握る展開が待っており、話の盛り上がりに大いに緊張することでしょう。そして結末を迎えた時、きっと不思議な感覚にとらわれると思います。その感覚こそが、この作品の醍醐味だと私は思います。

全部読み終えた時に訪れたあの不思議な感覚、そしてその謎が分かったときの感覚といったらもう、言葉にならないです。

たとえるならオーケストラの演奏でその盛り上がりに圧倒されていると、それまで完璧だった演奏の中に急に不協和音が混じってきて「あれ、おかしいな?」と思ったところで唐突に演奏が終了してしまったのに、周りの観客は一斉にスタンディングオベーションしている。私だけ「え? え?」って意味がわからず呆気にとられている。「殺戮にいたる病」を読み終えた私はそんな状態でした。

そしてその理由を考えて謎が解けた今は、私もスタンディングオベーションする側の人間です。

自分が抱いた感情の謎を解く、そういう意味ではこの作品は私の中ではれっきとしたミステリであり、こんなミステリはじめて読みました。

なぜ自分が違和感を感じたのか、その正体を探すまでがこの本の醍醐味です。 残酷描写に耐性がない人にはお勧めできませんが、ぜひぜひご自分の目で確かめて欲しい作品です。

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