千反田えると新入生の間に何があったのか。古典部シリーズ「ふたりの距離の概算」
古典部シリーズの最新作(最新といっても刊行されてからだいぶたってますが)の「ふたりの距離の概算」を読みました。
読みましたというか、電子書籍で随分前に購入していたのにそれを忘れていて、つい最近本屋で立ち読みしたという謎行動をとっていました。普段使わない電子書籍ストアで買っていたので、そもそもアプリを端末にインストールしていなかったせいもあったかもしれません。電子書籍はこういうところが不便かもしれないですね。
古典部シリーズ
私が古典部シリーズを知ったのはアニメ「氷菓」を見たことがきっかけでした。京都アニメーションによるキレイなアニメーションが印象的でした。台詞回しが巧みで、キャラクター同士の微妙な距離感が好きです。ミステリなんだけど殺人事件が起こるわけでもなく、日常のちょっとした出来ことから推論を組み立てていく感じが新鮮でした。
ちなみに原作はひととおり購入して読みました。古典部の文集がなぜ「氷菓」という名前なのかという謎に迫っていく氷菓。途中で脚本家が降りてしまった自主制作映画の謎解きをする「愚者のエンドロール」。手違いで作りすぎてしまった文集をさばきながら、学園祭で起こる珍事件の謎に迫る「クドリャフカの順番」。ショートエピソード集でアニメでは各所に挿入された「遠まわりする雛」。
これらはアニメですでに内容を知っている話だったので、読みながら頭の中でアニメのシーンが再生される感じでした。それだけアニメの再現度がすごかったということなんだろうなと思います。
個人的に一番好きなエピソードは、校内放送を唯一の材料として推論を組み上げていく「心当たりのある者は」です。アニメでは何話だったかは忘れましたが、原作小説では「遠まわりする雛」に収録されているものです。推論を立てているうちにどんどん話が大きくなってきて「そんな馬鹿なことがあるか」という結論に落ち着くんだけど、なんでこんな話になったんだっけっていうオチの感じがとても好きです。
ふたりの距離の概算
原作小説はアニメを見ていたら新鮮味が薄れてしまうのですが、その点「ふたりの距離の概算」はアニメ未収録の最新エピソードです。先が分からないのでとても楽しく読めました。
主人公の奉太郎たちは2年生になり、古典部に新たなメンバーが仮入部してきました。新1年生は既存メンバーとの仲も良好で、このまま本入部になるかと思われていましたが、突然「入部しない」と去っていってしまいます。
状況からして千反田えるとの間に何かがあったことが原因と考えらるものの、千反田が何かひどいことをするような人間ではないことは明らかです。ではなぜこんなことになってしまったのか。新入生を引き止めるためではなく、何らかの誤解があったのであればそれを解きたい。問題の現場に居合わせたのに何があったのかまったくわからない奉太郎が、他者への関心があまりに薄すぎたという自戒の意味も込めて解決に乗り出すお話です。
タイトルの「ふたりの距離の概算」が、なかなかいい意味を持ってるよなぁと読み終わった後に思いました。千反田と新入生の距離、奉太郎と千反田の距離、その他のみんなとの距離といった「心理的の距離」の意味もあります。しかしいちばん初めに出てくるのは、物理的な距離の意味でした。
物語の舞台が実はマラソン大会中なのです。マラソンを走りながら奉太郎は今までの出来ことを思い返します。しかし思い返すだけでは情報が足りません。どうしても当事者から話を聞く必要があります。そこで自身はゆっくり走りながら、後からスタートしてくるメンバーに抜かれる瞬間に話を聞くことにしたわけです。
新入生から「古典部には入部しない」と直接聞いた伊原摩耶花、原因は自分にあると思って多くを語らない千反田える、そして最後に新入生という順番で。大体どのあたりで接触できるかという物理的な二人の距離の意味もあって、タイトルが面白いなぁって思いました。
古典部シリーズ全体を通していえることですが、派手な事件が起こるわけではないものの、読んでて面白いです。殺人事件とかが題材のミステリと違って、比較的日常的なことを題材として扱っているからか、物語を身近に感じられるからかもしれないですね。
千反田えると新入生との間にいったいどんなトラブルがあったのだろう。そしてそれをどういう形でケリをつけていくのだろう。そんな主題に惹かれつつも、途中で挿入されるミニエピソードも面白いです。
アニメの氷菓が好きだった人ならきっと楽しく読めると思います。私も読んでいながら、頭の中にはアニメの情景が流れていました。それだけアニメの出来が良かったんでしょうね。
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