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たんぽぽ娘を読んでみた

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たんぽぽ娘
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たんぽぽ娘以外にも楽しめる作品があるといいね

私が読んだのは河出書房新社の単行本で、たんぽぽ娘以外の短編も収録されているものでした。そんなに素晴らしい話だというのであれば、著者の書いた他の作品もきっといいものに違いない、と思ったのがその理由です。たんぽぽ娘だけが目当てであれば、栞子さんの本棚ビブリア古書堂セレクトブックで読むという手もあります。

結論から言うと、ビブリア古書堂の事件手帖経由で読みたいと思ったのであれば、セレクトブックの方でもいいんじゃないかなと思います。たんぽぽ娘はたしかに素晴らしかったですが、他の短編は私の肌には合わないものもいくつかあったからです。

たんぽぽ娘はいい

たんぽぽ娘は確かに素晴らしかったです。あまりに「いい作品だ、いい作品だ」という意見を目にして、物語に対する期待水準も自然と高くなっていたであろうに、それでも確かに「良い作品だ」と思えるほどには良かったです。

40を超えたおじさんが、年甲斐もなく一人の少女に恋をしてしまうお話です。その少女は「私は未来から来たの」という不思議なところがありましたが、そういう空想を楽しんでいるのだろうと思って話を合わせてあげます。

「おとといは兎を見たわ、きのうは鹿、今日はあなた」

何とも不思議なフレーズです。そう感じるのは私がCLANNADで目にしたからかもしれませんけれども。

短い文量ながら心にジーンとくるいいお話です。締めの部分の流れがいまひとつ理解できずに頭のなかで「?」がぽこぽこ浮かんできましたが、少女の気持ちを補完して考えてみると納得いきました。栞子さんがべた褒めするのも納得です。

SFモノである

たんぽぽ娘を目的にしているとこの本がロマンス小説だと思うかもしれません。事実読み始めるまで私もロマンス短篇集だと思っていました。しかし実際のところはすべてSFモノです。

頭のなかで「ロマンスもの」という先入観があったせいかもしれませんが、収録されている作品の半分くらいは肌に合いませんでした。読み終わっても「つまりどういうことだってばよ?」と内容が理解できなかったり、内容はわかるけども楽しめなかったり、そもそも読むのが苦痛なものもあったりです。

収録されている13編のうち、ずば抜けていいなと思ったのは表題のたんぽぽ娘と、「エミリーと不滅の詩人たち」(どちらかというと、私は「エミリーと不滅の詩人たち」の方が分かりやすくて好きかもしれません)。この2つには引けますが、「主従関係」、「ジャンヌの弓」も面白かったです。ジャンヌの弓はオチが唐突過ぎてぽかんとしてしまいましたが・・・。

エミリーと不滅の詩人たち

収録されている短編の中でもっともSFっぽくない作品です。おそらくこの作品が発表された当時は十分にSFな作品だったのでしょう。

話の内容はこうです。

博物館で働くエミリーは、<詩人の間>と呼ばれる展示を担当している職員です。<詩人の間>はあまりに不人気で誰も見に来る人はいません。この展示は、歴代の詩人に模したアンドロイドにその詩を朗読させるものです。エミリーはずっと一人で担当していることもあって、この不滅の詩人たちに特別の思い入れを持つようになります。特にアルフレッド・テニソンが大のお気に入りです。

しかしあまりにも不人気なため、博物館は<詩人の間>の代わりに、展示スペースを必要としている自動車を置くことを決定します。当然エミリーは抵抗しますが決定を覆せるわけもなく、<詩人の間>は自動車展示場へとその姿を変えてしまいます。落胆したエミリーは、せめて詩人たちを一目見ようと倉庫に向かいますが、そこには詩人たちの姿はありません。詩人たちはスクラップ処分のために地下室に放置されていたのです。

慌てて地下室へ向かったエミリーは、そこで無残に放置された詩人たちを見つけます。テニソンを見つけて救い上げると、大好きな詩の朗読を聞きます。ずっと聴いていると、我に返った時には夜になっていました。博物館は真っ暗になっており、エミリーがまだいることに誰も気づかずに皆帰ってしまったようでした。

そんな中でエミリーの目に消防隊の展示が目に入ります。そこにはギラリと光る手斧が置いてありました。私の敬愛する詩人たちの居場所を奪った車たち。エミリーはその手斧を持ち、かつて<詩人の間>だった場所を占拠している車の前にやってきます。斧を振り下ろそうとした瞬間、エミリーはふと気づきます。この誰も乗っていない空っぽの車は、地下室に追いやられた詩人たちと同じように死んでいるも同然ではないかと。

こんな感じの話でして、エミリーの恋する乙女な感情や、楽しげに詩人と接する姿がありありと浮かんできて、読んでいて微笑ましくなりました。このの後のオチのつき方がとてもスカッとするもので気持ちいいです。たんぽぽ娘と一緒にぜひ読んでもらいたい。

地味な話ですが、私はこういう話が大好きです。

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