少年検閲官シリーズを読んでみて

少年検閲官
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もっとファンタジーな物語だと思ってた

ちなみに表紙の絵を描いているのは片山若子さんという方。米澤穂信の〈小市民〉シリーズの表紙を描いている方であります。

書物の存在しない世界

この世界では書物が存在しません。

とりわけミステリが忌み嫌われています。 理由は犯罪を扱っているから。 だから世界から弾圧され、それがエスカレートしていって焚書の対象が広がっていき、やがてはあらゆる書物が駆逐されてしまう。 そんな世界の物語です。

書物というか紙に文字を書いたものも含めてすべてがアウトらしく、人々の情報源はラジオだけという世界です。子供たちはラジオから流れてくる情報を元に勉強をします。ノートも焚書対象なのだろうからか、黒板をノート代わりにしているみたいでした。

文字、文書による情報の記録・伝達ができないので、自然と科学力や技術力も衰退してしまっているようです。ようですというのは、読んでいて私が混乱していた部分でもあるのですが、後になってみて「そうなのかな?」と思っているというだけであり、今もってよく分かっておらず確信が持てていないからです。(もしかしたら単に私が読み落としただけなのかもしれませんが)

そんなわけでこの物語の雰囲気は退廃的です。実際に異常気象による海面上昇によって、世界は海に沈むのをただ待つだけという状況なので、本当に滅び行く世界です。なぜそのような状況下にもかかわらず、あらゆる書物を対象に焚書しているのかはよく分かりません。

ともかく本がすべて焼かれてしまうので、人類は対処方法を持ち合わせていないんだと思います。

正直なところ、このあたりのがよく分からない(読み終わった今もよく分かっていない)のが、いまひとつこの作品にのめり込めていない理由だと私は思っています。

滅び行く世界とか私は大好きなんです。特にゆるやかに死んでいく世界、実にいいと思います。そういう意味で、中盤すぎるあたりまでこの物語の雰囲気が私としては心地よく、とても楽しく読んでいました。

途中までずっと中世ヨーロッパみたいなイメージでずっと読んでいたんですが、「あ、ここ日本なの?」とか「思ったよりも現代なの?(GPSとか車とかあるんだ)」という感じで、迷子になってしまいました。

少年検閲官がよくわからなかった

タイトルになっている少年検閲官は、物語の序盤にちらっと表れたかと思ったら、後は終盤まで出てきません。

そして出てきたと思ったら、なぜか主人公のクリスと一緒に調査を始めます。・・・なんで?

検閲側は強硬というか、一般人をゴミ虫のように扱うみたいなイメージがあります。それがなにゆえに、一般人であるはずのクリスと行動を共にするのかが不思議でなりませんでした。

序盤で海に潜っているクリスを見て興味を持ったという描写があるのですが、私はそれだけでは腑に落ちませんでした。 この世界は海に沈みゆく運命にあるので、人々は海を忌み嫌っている。 それなのに平気で泳いでいる奴がいたので興味を持ったというのです。 それは理解できなくもないのですが、焚書対象を探す捜査に一般人を連れていく理由としては納得できませんでした。

検閲する側の人間が、なぜ一般人と一緒に捜査をするのか。物語の世界観がよくわからなくなってきたところに、検閲官のご都合主義的な検閲官らしくない行動がたたみかけてきて、いまいちのめり込めなくなってしまいました。

ミスマッチと感じた要因

私はこの本を、当初ファンタジー小説として読んでいたように思います。少なくともミステリであることを忘れてました。それくらい序盤の雰囲気は幻想的で、あふれる退廃的な感じに私はワクワクしていました。

最初は書物が存在しないという世界観が面白いなと思っていました。

登場人物たちは実は人間ではなく、人形とか動物とかで、読者に人間だと錯覚させているような物語なのかと途中まで半ば本気で考えていました。「なにもないところからいきなり建物が現れて・・・」なんていう描写が出てくるものですから、登場人物たちが人間ではないという意味でのファンタジーな展開を予想していました。

しかしその実態はもっと現実的なものでした。犯行動機やその方法もおとぎ話的ではなく、もっと狂気に満ちあふれたものでした。

かと思えば、ガジェットというアイテムが出てきます。書物は失われてしまったけれども、ミステリを後世に残すため、特殊な技術によって文字を記録した宝石のようなものであり、少年検閲官はそのガジェットを専門とする検閲官なのです。

ミステリの構成要素を分解してガジェットに封印した、というあたりにどこかラノベチックなノリを感じます。

しかし実際には思った以上にロジカルで、本格ミステリ志向で、それが私にとってミスマッチな印象をもつ原因なんじゃないかなと思っています。

どこかチグハグ感が否めないというか。いっそのこともっとこう「くらえ、密室のガジェット」「甘いな、錯覚のガジェットで無効化する」のようなぶっとんだ展開だと私はもっと好きになれたように思います。それではもうミステリじゃなくなるかもしれませんけれども。

ファンタジーな世界なのかリアルな世界なのかが、最初っから最後までよくわからなくて、物語に没入できなかったのが影響しているかもしれません。

シリーズものである

シリーズものなので続きを読んだらまた違う感想になるのかもしれないと思い、続編である「オルゴーリェンヌ」も読みました。

ただやはり、「少年検閲官」で抱いたちぐはぐな印象は覆りませんでした。

序章の部分の物語が私にとってすごいツボる感じで好きなんですが、それが本編、特に少年検閲官や主人公のクリスの行動とミスマッチしてる印象を受けてしまうのは「オルゴーリェンヌ」でも同じでした。序盤と結末がすごい好みであることも含めて。

少年検閲官が主役なのに、その少年検閲官が私にはうまく消化できませんでした。

どちらかというと、私はミステリとしての面白さより、世界観や物語の雰囲気を重視する傾向があります。その意味では、雰囲気はとても好きな物語なのに、いまひとつ没頭できなくてモヤモヤする作品でした。

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