二人の関係を推理する、春期限定いちごタルト事件

春期限定いちごタルト事件
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見事にしてやられた。

ちなみにシリーズ名は〈小市民〉シリーズというそうです。タイトルの法則性から、季節限定事件シリーズとか思ってたら全然違いました。

恋愛関係でも依存関係でもなく、互恵関係にあるという小鳩常悟朗と小佐内ゆきの二人の関係性について、あれこれ想像しながら読むのが楽しいです。

私は著者の米澤穂信さんを、〈古典部〉シリーズで知りました。最初の氷菓を読んだときから思っていましたが、登場人物の距離感の描き方が巧みです。登場人物同士は知っているから口にはしないけど、読者として読んでいるこちら側は分からない。そういう空気感が、キャラ同士の距離感として表れていて、あれこれ想像する楽しみが生まれます。

とにかく説明セリフが少ないのです。ぼくはこういうものです。こいつはこんなやつです。彼女はこういう人です、とはっきりと言及しません。しないけど断片的な情報が出てくるので、そこから想像していくわけです。だから続きが気になって、あっという間に読み終わってしまいます。

本書の最後に解説があり、そこに「読め、とにかく読め」と書かれています。解説になってないけど、解説として正しくもあります。

この本は、ヘタに内容についてあれこれ語ると面白さを損なう恐れがあります。いえ、結末が分かっていても読み返せば面白いです。文章は軽快で、コミカルで、心地よいテンポ感と魅力的な登場人物たちがクスリとさせてくれます。しかし先がわからないからこそ楽しめて、だからこそこのシリーズが好きになれる要素が隠されています。これは「とにかく読め」としかいえません。

〈古典部〉シリーズが好きな人は、きっとこのシリーズも気に入ると思います。日常に潜む些細な謎を扱うミステリという点では、こちらも同じです。

ミステリと言ってもライトなミステリです。逆に推理モノはあまり好きではないという人の方が楽しめるかもしれません。特に探偵がしたり顔で推理を披露するのが納得いかない、なにか気に食わない、という人は共感できるかもしれません。

何かあったら人の背中に隠れる、小動物のように可愛らしいヒロインをお求めの方にもお勧めできると思います。きっと小佐内さんの魅力に心奪われることでしょう。それはもうクリーンヒットですよ。でした。

ライトノベルではちょっと物足りない、かと言って小難しい文学作品はちょっと苦手、という方にもお勧めできるのではないでしょうか。小洒落た表現や、ちょっと難しげな言い回しなどが出てくるので勉強になります。最近小説を読むときには、知らない単語や面白い言い回しなどをメモするようにしているのですが、結構なメモの数になりました。辞書片手に読むといい勉強になると思います。難しい言い回しなんかもありますが、基本的にはコミカルな物語なので、読むのが苦になることはないでしょう。

活字を読みながらここまでニヤリとさせられるなんて思ってもみませんでした。いいものに出会えました。

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