推理は当たったかな? 秋期限定栗きんとん事件下巻で答え合わせ

秋季限定くりきんとん事件 下
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このシリーズに出会えて良かったと心の底から思える逸品。

秋期限定栗きんとん事件の下巻は、上巻からの続きです。上巻を読んでしっかりと推理はできたでしょうか。私は通しで2回も読み返し(通しで読み返すのは生まれてはじめてかもしれません)、放火犯はこいつだろうということだけはっきりしてました。後はモヤモヤした感じで、私にはそこが限界でした。

下巻を読み終わってから思えば、あれこれ推論をこねくり回す楽しみを味わえて良かったと思います。この人物の行動はこういう意味で、そう考えたらここはこう解釈できる。あれ、でもあそこと矛盾するなぁ。などと、割と楽しかったです。

下巻を早く読みたいと逸る気持ちと、読む前でしか楽しめないと抑える気持ちのせめぎ合いの中で、ベストは尽くせたと思います。きっと下巻が出る前からこのシリーズを読んでいる人は、気が気でなかっただろうなぁ・・・。

かわいそうな瓜野くん

校内新聞の知名度を上げ、自分の名を刻み、そして小佐内さんにいいところを見せる。一心不乱に放火犯を追う瓜野くんの姿は、正直なところ、小佐内さんがいなければまともに読み進められなかったかもしれません。

おれだけが知っている。優秀なこのおれだけが。そういう自尊心の塊とでもいいましょうか。自分だけが特別だと思い込んでいる痛々しさが、自分にも覚えがあるという意味で、読みながらつらいものがありました。自分のそういう面を突きつけられているかのようでした。

小佐内さん出てきて、「何か企んでらっしゃいますね」と気を逸らしてくれなければ、読み進むのが辛かったでしょう。

そうして突き進んでいった瓜野くんには、悲しい結末が待っています。「うわぁ、かわいそう・・・」と思いはするものの、同時に晴れ晴れとした気持ちで読んでいる自分もいました。意味自業自得。とはいえ、瓜野くんのその後の学園生活を思うと、同情を禁じえません。

意外と抜けてる小佐内さん

小佐内さんの抜けている一面が時折顔を出すのが可愛らしいと思います。

裏から手を回し、籠絡するのが得意な小佐内さん。しかし完全無欠というわけでもなく、余計な一言で窮地に立たされることがあるのが面白くもあり、また私にとっては救いでもあります。全然女子高生らしくありませんが、こういう欠点があるとやっぱり女子高生と思えるのです。

パフェ事件のときは小鳩くんのカマかけに引っかかってボロを出していました。

今回の栗きんとん事件では、自らの余計な一言で瓜野くんの疑念を確固たるものと変えてしまいました。もっとも、今回のは結果オーライでしたが。

自分の張った罠ではなく、余計な一言を論拠にされてしまって不機嫌な小佐内さんが可愛らしいと思います。(可愛らしいといえば、放火現場に現れた小佐内さんの荒ぶる姿も可愛らしいと思いました)

小鳩くんの異常性

かわいい外見に反して中身が狼という小佐内さんにばかり目が行ってしまいますが、狐と呼ばれる小鳩くんもちょっとズレてます。だいぶズレてます。

タルト事件の頃は、ちょっとユーモラスなだけな単なる推理好きだと思っていました。

パフェ事件のときには、小佐内さんのピンチにもかかわらず、心配で焦るのではなく「腕試しのちょうどいい機会が訪れた」と高揚するという異常性がチラ見えしてました。それでもちょっとスカした賢しいやつだ程度に思っていました。もっとも、小佐内さんの闇の深さにアテられて、正直小鳩くんどころではなかっただけですが・・・。

そして、ようやく。この秋期限定栗きんとん事件で、やっぱり小鳩くんもどこかおかしいのだということがよく分かりました。ふたりともどこかズレていて、だからこそ孤立して、もうそんなのは嫌だと小市民を目指す。

過去に何があったのかについては語られません。しかし、こうして物語を読み進めていくことで垣間見える二人の本質が、過去の出来ことを雄弁に物語っているといえるのではないでしょうか。

ノットイコール解答編

上巻の紹介のときには「この上下巻は出題編と解答編といえる」と書きましたが、あれは私が勝手にそう思っていたというだけの話です。これが出題編と解答編だとは、公式にはうたわれていません。ミステリで上下巻に分かれているのだから、上巻で推理に必要な情報が開示されていて、推理すれば真相にたどり着ける仕組みになっているのだろうと私が勝手に思い込んだだけです。

ですが、私はこの思い込みをしていて良かったと思います。いや、ほんとに。もしも著者が意図してそう思えるように構成していたのだとしたら・・・言葉もありません。その構成力に脱帽です。

この下巻を解答編だと思って読んでいたからこそ、私はあの感動を味わうことができました。最終章で小鳩くんが「ところで・・・」と切り出したとき、私の中を駆け巡った衝撃といったらもう、言葉になりません。思わず変な声が出ました。

解答編だと思っていたからこそ、放火犯が捕まって気が抜けてしまっていたのでしょう。むしろ放火犯は分かりやすすぎて拍子抜けでした。なんだよ、大したことねぇななんて思ってしまいました。後は栗きんとん食べて終わりなんだろう、なんて油断していたのです。だからこその最終章の衝撃。小佐内さんはいったい何をやっていたのか、ということ。

全身を駆け巡る衝撃。その衝撃は、驚きをとおり越して快感に達しました。私が勝手に思い込んで勝手にはまりこんだだけなのかもしれませんが、こんな衝撃を、快感を味あわせてくれてありがとうと心の底からお礼を言いたいです。

この上下巻を正しく言い表すのなら、屈辱編と復讐編。パフェ事件のときのように衝撃的な結末と、それでいて気持ちのいい読了感が待っています。

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