遠まわりする雛のあとがきから始まる読書の旅
古典部シリーズの「ふたりの距離の概算」の記事を書きました。これをきっかけに、他のシリーズも読みなおしてみました。
で、表題の「遠まわりする雛」のあとがきに、こんなことが書いてありました。
もし本書をきっかけにミステリを広く読んでみたいと思われる向きがありましたら、「心当たりのある者は」がハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」への、「あきましておめでとう」がジャック・フットレル「十三号独房の問題」への入り口になってくれれば嬉しいです。
「心当たりのある者は」は、古典部シリーズの中でも私がお気に入りのエピソードです。
折しも気分的に本が読みたい気分でしたので、せっかくならばと読んでみることにしてみました。 私は自分から小説を読もうなんて思わない性質なものですから、人から薦めてもらって読むのも悪くないと思ったのです。
ちなみに2つのエピソードはざっくりいうとこんな感じのお話です。
「心当たりのある者は」は、奉太郎とえるの2人がとある放課後に流れた校内放送をネタに、推論を組み立てていくお話です。 理屈の合う推論が必ずしも事実と一致するわけではないのだ、ということを証明するために始めたゲームです。
「あきましておめでとう」は、寒い中納屋に閉じ込められた奉太郎とえるが、いかにしてそこから脱出するかというお話です。 納屋の扉を破壊したり、その辺りを行き交う人達に助けを求めることが出来ないという制約があるので、微妙にドラマになっているわけです。
九マイルは遠すぎる
「心当たりのある者は」は、理屈のとおる推論であろうとも、それが真実とは限らない。 推論と理屈は何にでもくっつくというえると奉太郎の会話から始まります。 「九マイルは遠すぎる」もそれと同じような展開で始まります。
やたら難事件を解決する名探偵を褒めていたら、「理屈にあった推論が事実と一致するとは限らない、むしろ一致することのほうが少ないのだ」なんて反論されてしまいます。そんな簡単なものではないだろうという話をしているところに「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」という会話が聞こえてきます。 ではこれを題材にして、理屈なんてどうとでもつけられるんだという実演をしようという展開になります。
この言葉から導き出される推論を紡ぎだしていったら、なんととんでもない事件につながってしまいます。 私はこういう洒落たオチ大好きです。
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ」
この文章からどんな推論が導けるでしょうか。 私なら字面とおりにしか受け取れず、ここから何かをふくらませていくこと自体が難しいです。
マイルが感覚として分かりにくかったり、地理に依存した推論が展開されたりもするので、馴染みやすさの面でいえば「心当たりのある者は」に軍配が上がります。 それでも軽快な展開や、オチのつき方から、この「九マイルは遠すぎる」もとても面白く読めました。
なんだ、活字を読むのって楽しいじゃないか。 ちょっと文化人を気取りたくなります。
この「九マイルは遠すぎる」は、表題のエピソードから始まる8編の短編エピソードで構成されています。
私は最初の2編(九マイルは遠すぎる、わらの男)と最後の「梯子の上の男」が面白かったです。 前2つは物語のオチの付け方が私の好みで、最後の1編は物語の展開が良かったです。 特に最後のエピソードは読みながら「おおおっ」とテンションが上がっていく感じでエキサイティングできました。
途中のエピソードは私はあまり好きにはなれませんでしたが、最後のエピソードが面白かっただけに、読んでみて良かったなぁと思いました。
十三号独房の問題
十三号独房の問題は世界短編傑作集1に収録されています。 この本には「十三号独房の問題」を含めた7編の短編小説が収録されています。
発表された年代が古いことと翻訳されたものであることもあってか、文体が古かったりして取っ付きづらい印象もあるにはありますが、全体的にどのエピソードも面白かったです。
十三号独房の問題は、もうこれは卑怯だなって思うくらいに面白いです。 売り言葉に買い言葉で始まる導入部分から始まる脱獄劇です。 「思考は物理を超える」「んなばかなことあるか」「いや、間違いないね」「じゃあ脱獄できるのかよ」「当たり前じゃん」みたいな感じで物語が始まります。 もうこの部分からして面白い。
扱われる題材が「脱獄」というエキサイティングな内容であることもまた卑怯です。 これが面白くないわけがない。
本当に脱獄できるのか、だとすればいったいどうやって脱獄するのか。 興味が持てないわけがありません。脱獄するまでの期間、看守をおちょくってるようにしか見えない様子はコミカルで、読みながらついつい笑いがこみ上げてしまいました。
「こんなので本当に脱獄できるんかいな」と半信半疑でいたら、本当にやってのけてしまいます。 どうやってやってのけたかは実際に読んでみてください。 この話は絶対に面白い。種明かしの部分は登場人物たちとシンクロして、脱帽する思いで読めると思います。
他のエピソードも面白いものが多く、「人を呪わば」「医師とその妻と時計」「放心家組合」が特に面白かったです。 もっとも一番は「十三号独房の問題」ですけどね。
読書の旅
私は普段活字を読みません。 昔はライトノベルにハマっていた時期もありましたが、最近はとんとご無沙汰です。
そんな中で誰かから紹介された本を読むのもいいんじゃないかなと思えました。 今回は著者がモチーフにした物語の紹介という形でした。
自分から興味を持って本を探すのは、本をたくさん読んでいる読書家の人なら簡単でしょうが、私のように普段本を読まない人にはハードルの高い行為です。 であれば、いっそ開き直って他の人が薦める本を読むのもいいかもしれません。 そうやって本を読んでいけば、いずれ自分の好きな本の傾向がわかってくるのではないでしょうか。
こういう形で本を読むのも悪くないなと思います。
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