ABSフィラメントでのはじめての印刷
目的は3DプリンタのMODパーツの印刷。そのためには耐熱温度の問題からABSを使ってみることにした。ABSは印刷が難しいらしいが、やってみないことには何事も始まらない。
とりあえず以前買ったPLAと同じメーカーのものを買ってみることにした。PLAを買ったときにはなんとも思わなかったが、フィラメントのおまけに入っているシートが後ほど役に立ったので、これにして正解だったかもしれない。
ABSの印刷は難しい
印刷が難しいとは聞いていたが、予想以上に難しかった。
3Dプリンタを買って最初に印刷するのがABSだったら心が折れてたかもしれない。その点PLAは素直に印刷できて気軽でいいと思える。
PLAでは何の問題もなく印刷できていたものが、ABSではまともに印刷できなかった。そもそもベッドに定着しない。ABSはベッドに定着しにくい、剥がれやすいとは聞いていたが、よもやここまでとは思わなかった。
観察してみると、印刷を始める最初の段階でフィラメントがしっかりと出ていないのが原因なように見受けられた。ほそぼそとしか出ておらず、そのせいでベッドに定着しない。ベッドにつかずにそのまま垂れ流された状態でヘッドと一緒に動き回るので、後続の樹脂が絡め取られてしまっていた。
運良く土台部分ができても、印刷が進むにつれて反りだし途中で剥がれてしまう。これは厳しい。
印刷物の形状によるが、接地面積に比べて頭でっかちな形状だと確実に剥がれる。頭でっかちでなくとも接地面積が狭いと剥がれる。
さらに印刷物で発生する反りが激しい。よく見たら微妙に反っているかもしれない、なんてレベルではなく原型をとどめていないレベルで反る。接地面積が狭ければそうでもないが、広いものになれば運良く印刷完了までいったとしても端の方は完全に浮いている。
それらはすべてベッドへの定着の悪さからくるものだ。最終的にはフィラメントに付属していたシートを使うことでうまくいくようになった。レベリングし直しが面倒くさいものの1、シートのおかげでベッドへの定着が改善した。しっかりと定着して剥がれないので、反りの問題も起きない。
逆にくっつきすぎて印刷物を剥がすのに苦労するくらいだった。ヘラでガンガンやっても剥がれないくらいシートに食いついている。無理に剥がしたらシートが部分的に伸びて波打つ結果になってしまい、貼り直しを余儀なくされた。無理に剥がすのはダメ、絶対。
また、シートを使って印刷すると接地面が汚くなるのにも注意が必要かもしれない。接地面積が広いと特に気になるかもしれない。私の買ったABSフィラメントは黒色だが、剥がしたあとは白くなってしまっている。
ABSの強度
PLAで印刷したものも十分に固いと思っていたが、ABSで印刷したものと比べると強度の違いがよく分かる。
PLAの場合はそれなりに厚みがあれば固いのだが非常に脆い。折り曲げる力をかけるとかんたんにポキっと折れてしまう。また継続して力がかかるのにも弱いようで、徐々に変形していく。次の画像はヘッドホンフックとして作ったものだが、そこまで重さのないヘッドホンを引っ掛けているだけなのにPLAの方は変形してしまっている。
写真ではわかりにくいかもしれないが、水色のPLAの方は机の天板に挟み込むためのコの字型の部分が変形している。PLAは大して重くもないヘッドホンをひっかけて1週間くらいで変形してきている。対して同じモデルをABSで印刷したものは、それ以上使い続けているが変化を感じない。
次はフックの部分を細めに作ったモデルである。PLAもこのようなフック状の形状だと、PLAで印刷したものはいとも簡単にポキっと折れてしまう。ABSはある程度しなってすぐに折れることはなかった。
PLAだからすぐに壊れるわけではないけれど、瞬間的に力がかかるところには使わないほうがいい。継続的に力が加わるフック形状もあまり長持ちしないかもしれないので注意が必要だろう2。
PLAは印刷しやすい長所を活かして、作成したモデルが想定通りに取り付けれるか確認するためのテスト用と割り切ったほうがいいのかもしれない。
ABS印刷のための工夫
印刷しにくいとはいえMega-Sデフォルト状態で印刷することは不可能ではない。最終的にカスタムプリントヘッドをABSで出力して取り付けたが、最初はデフォルト状態で印刷しなければならないからだ。
そのためにやったことは大きくは次の3つ。
- ベッドのレベリング(カスタムファームウェアの導入してのメッシュレベリング)
- エクストルーダーのキャリブレーション(https://note.com/y_labo/n/nce26de479f93)
- 印刷設定の調整(リトラクション周り)
印刷に失敗しているのを観察していると、樹脂の出方が悪いのが原因のように見えた。特にトラベル3後の最初の出力が弱い。そこで疑うべきがエクストルーダーのキャリブレーションとリトラクションの設定だ。
エクストルーダーのキャリブレーションで、機械側で10mmの樹脂送りを要求しているのに実際には9mmしか送られていないという状態を是正する。
リトラクションの設定は、トラベル時に樹脂を戻す設定のこと。戻しすぎてトラベル後の出力が弱くなるのかもしれないと思って値を小さく設定し直したりした。
このような調整を行うことで、カスタマイズを施していないMega-SでもABSを印刷することはできた。
エンクロージャー
他に直接印刷の成否には影響しているようには思えないが、エンクロージャも作成してみた。
ちまたには洒落たエンクロージャーを自作する人がいる。そういうのを作ろうかなと私も考えはしたが、パーツの印刷時間がかなりかかることを見て断念。
とりあえず適当に囲えるものを作ればいいかなと思い、ホームセンターで1820x910のプラダンを仕入れてきて工作することにした。さすがに全面をプラダンで覆うと印刷の経過を確認できないので、正面にはアクリル板を取り付けることにした。
これを使うと3Dプリンタの近くで感じる熱感が変わる。こんな適当な作りではあるが、断熱性はそれなりにありそう。
副次的な効果として、フィラメントのニオイの軽減にも効果はあるかもしれない。とはいえ完全に密閉してるわけではないので、なにもないよりはマシだというだけだが。
カスタムModに付け替えたら精度があがった
ABSで印刷しようと思っていたカスタムModが印刷できてなんとか取り付けることができた。これによって印刷精度がかなり改善された。特にオーバーハング周りの出来が顕著に良くなった。
左から初期・カスタムMod印刷前、カスタムMod導入後の印刷結果だ。最初はベッドへの定着がうまくいかず、印刷途中で剥がれるような状態だった。カスタムヘッド導入前後ではあまり差がないように見えるが、穂先の部分で見るとかなり違いが出ている。
ヘッドパーツの取替作業のときに一番大変だったのはケーブルを抜くことだろうか。めちゃくちゃ固くて泣きたくなった。ラジオペンチで外したけれど、微妙にケーブルを損傷してしまった。
その後このカスタムModを使って改めて印刷し直すときにはこのような工具を用意した。素手やラジオペンチを駆使するよりは抜きやすかった。
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